・・朝日新聞デジタルWEB3月8日付記事より・・
石岡一(茨城)
2月、グラウンド脇のベンチに段ボールが置かれていた。女子マネジャーに中身を
尋ねると、「搾りたての牛乳です」。部室には米袋が積まれていた。
練習が始まると、マネジャーたちが米を研ぎ始めた。4升を炊き、練習中に一人が
どんぶり1杯ほどを平らげる。体づくりの一環だ。この日のおかずは卵やとんかつ。
購入することもあるが、食材の多くは近隣の農家や卒業生からの差し入れだという。
石岡市は茨城県中央部に位置する。部員全員が県内出身で自宅通学だ。農学校が母
体の県立高で普通科のほかに園芸科、造園科があり、部員49人のうち22人はこ
の2学科で学ぶ。約4キロ離れた農場での実習が優先されるため、夏休みの練習試
合では主力を欠くことがあり、平日も部員がそろいにくい。
そんな環境のなか、石岡市出身で竜ヶ崎一(茨城)で選手として夏の甲子園を経験
し、10年前に就任した川井政平(しょうへい)監督(44)のもとで力をつけた。
16、17年と春の関東大会に出場し、昨秋県大会は4強に。大学進学率とは違う、
農業を通じた「新しい形の文武両道を示す可能性がある」などとして21世紀枠で
選ばれた。
エース岩本大地(2年)は最速147キロを誇る。祖父の庭作業を手伝った経験か
ら「木を切ることや実習が面白そう」と造園科を選んだ。川井監督は農業系学科の
生徒の特色を、「葉や木の枝とふれあって感受性が豊かだし、何かを丁寧に仕上げ
る作業をいとわない」と話す。
昨夏の全国選手権で準優勝した金足(かなあし)農(秋田)の躍進は大きな励みだ。
同じ農業系で、地元出身者が中心の公立校。エースは右の本格派という点も似通う。
地元の温かさもまた共通点だろう。主将の酒井淳志(2年)は言う。「差し入れを
下さり、応援して下さる地域の方に、甲子園でいい姿を見せて恩返しがしたいんで
す」。人情味ある支えを血肉とし、春夏通じて初となる甲子園に立つ。(竹田竜世)