今年、高校野球担当として多くの球児たちの青春を追いかけた。その中でも忘れられない選手が

いる。石岡一のエースだった岩本大地投手(3年)だ。

21世紀枠として初出場した選抜大会の初戦、盛岡大付(岩手)戦は初勝利目前だった。2点リードで迎えた九回裏二死二、三塁、追い込みながら勝負の1球が真ん中近くへ入り、同点適時打を

浴びた。結局、延長十一回にサヨナラ負けを喫した。

夏の県大会も1球に泣く。準々決勝の霞ヶ浦戦だ。延長十回裏二死三塁、打者を追い込んだもの

の、この日165球目のスライダーがワンバウンドして捕手のミットをすり抜け、三塁走者が生

還。サヨナラ負けに呆然と立ち尽くした彼の姿は今でも忘れられない。

彼が行けなかった夏の甲子園では、県大会で投げ勝った側の霞ヶ浦・鈴木寛人投手(3年)を取

材した。初戦の相手は強打の履正社(大阪)だ。相手がペースをつかむ前に先取点を奪いたい一

戦だったが、結果は初回に先頭打者本塁打を浴びた。追い込んだ末の5球目を右翼席に運ばれた。

2番手投手を含めて11点を奪われる敗戦は、思えばこの1球で流れが決まった。

数え切れないほどの球を投げ込んで、投手はマウンドに立っている。それでも、たったの1球が

試合を左右する。それが実力なのか、勝負の世界にすむ「魔物」のせいなのか、それは分からない。確かなのはたった1球で、選手は天国も地獄も味わうということだ。

時が過ぎ、冬となり、12月5日、石岡一高へ彼を訪ねた。少し髪を伸ばした彼はエースの責任

感から解放されたのか、リラックスした表情だったが、もちろんあの1球は胸にある。「茨城で

も勝ちあがれず、夏の甲子園にも行けてない。プロに行くにはまだ早いですね」。来春から中央

大学に進み、さらなるレベルアップを目指す。偶然にも記者の出身大学でもある。

「高校時代に1球の重さを感じられたことはこれからに生きる」と前を向く18歳。悔しさを乗

り越え、壁を打破して進もうとする姿に、野球の醍醐味だけでなく、小さな一歩でも決して甘く

見ず、真っすぐに向き合う大切さを教えてもらった。取材の機会は少なくなるが、奮闘をこれか

らも見守り続けたい。  (長谷部駿)