21世紀枠で春夏通じて初めての甲子園出場をつかんだ石岡一。部員の約4割が
園芸科や造園科といった農業に特化した学科で学ぶ。昨夏の甲子園で旋風を起こ
した金足農(秋田)の再来を狙い、練習に力がこもる。長年応援を続けてきた地
元も、初舞台へ向けて様々な後押しをしている。
2月中旬の平日。午後4時前ごろから、少しずつ部員がグラウンドに集まってき
た。早い順に3,4グループに分かれ、筋力トレーニングやバッティングの練習
を開始。1時間ほど経ったころ、メンバーがようやくそろった。
学校から約4キロ離れた農場で実習がある日は、農業系学科の集まりは遅い。普
通科も授業などがあり、同時に練習を始められることはほとんどない。平日は個
人の課題にじっくり取り組めるよう、少人数でグループ練習を行なう。
全員が守備につく実戦に近い形式の練習ができるのは主に週末だけだが、昨年の
秋季大会で2本塁打を放った中山颯太選手(1年)は「人数が少ないと、バッテ
ィングの練習で多く打てる」と前向きにとらえる。
2005年の茨城大会で波崎柳川を準優勝に導いた川井政平監督(44)が就任
した10年夏以降、投手を中心に守り勝つ野球をめざしてきた。数年かけて守り
の意識がチームに浸透した上で、13年夏に16強入りした頃から打撃練習に多
くの時間を割き、14年に初めて8強入りした。昨秋は2年連続で甲子園に出場
した土浦日大や昨春の選抜大会16強の明秀日立を破り、県の4強まで進んだ。
打撃は思い切りが良い外野手の武田翼選手(2年)や酒井淳志主将(2年)から、
しつこい打撃の飯岡大政選手(1年)、塚本圭一郎選手(1年)らにつなぐ。最速
147キロの直球が武器の右腕、岩本大地投手(2年)は昨秋4試合に登板し、
36奪三振した。
園芸科の塚本選手は「ネギ畑の除草はしゃがんでやるので足腰が鍛えられる。真
夏の作業なので忍耐力も養えます」。造園科の岩本投手も「夏に長袖長ズボンに
ヘルメット姿で、ハサミやノコギリで生け垣などを作る。ケガしないための集中
力が生きる」と笑う。
マネジャー3人のうち2人も農業系学科。自分たちが作ったニンジンやサツマイモ
などを使い、豚汁やカレーなどの温かい料理を作ることもある。酒井主将は「地域
の人に協力してもらっているので、その分プレーで恩返ししたい」。
地元 応援ムード
地元の応援ムードも盛り上がっている。22日には岩本投手や川井監督らが市役所
を訪問。今泉文彦市長が「地域をあげて応援している。まずは1勝を挙げて、石岡
一の校歌を響かせて欲しい」と激励した。市は出場を祝う横断幕を駅に掲げ、商工
会議所などがポスター1千枚を作った。
同校に教科書を納めているたかぎ書店は、出場を知った5分後に店舗のガラス窓に
「がんばれ!石岡一高野球部」などと書いた紙を貼り出した。JR石岡駅では改札前
に特設ブースを設け、メッセージカードや千羽鶴用の折り紙を用意。来月18日、
部員らが同駅から大阪に出発時に贈る予定だ。目を引くのは、駅近くの商店街の
交流スペースに置かれた、ひな人形を用いたユニークな飾り。球場で相手校と整
列した場面をイメージした。野菜を持った人形などがすらりと並ぶ。
練習はほとんど毎日、地元の同校OBらが見守る。近隣農家から米の差し入れを受
けるなど、地元から愛されてきた。近くに住む石橋凱(やすし)さん(76)は
10年ほど前から週1回程度、熱々の揚げ物や果物を差し入れる。「おなかいっ
ぱい食べて、体が大きくなればうれしい。甲子園出場の伝統校になってほしい」
と期待を寄せる。(高井里佳子)